みたっくす
本記事は、広島県尾道市にある古本屋「弐拾dB(ニジュウデシベル)」を訪問し、弐拾dBの店主:藤井基二さんと、この場を作っていただいたONOMICHI SHARE 事業責任者/コンシェルジュの後藤 峻さんとの対談内容をお届けします。「弐拾dB」についての成り立ちから今まで、そして、これからの持続可能な本屋への思いを語っていただきました。
「弐拾dB(ニジュウデシベル)」に行こうとしている方、本屋を運営している方にこれから本屋を始めたい方、そして、本好きな方にも是非読んでいただきたい内容です。
三者三様に語った本と本屋の未来を、当時の空気感のまま紹介させていただきます。
▶ 対談の様子は動画でも視聴いただけます。ラジオ的に聴いていただくこともおすすめです。
※※対談は2020年2月に行われたものです。
はじめに
みたっくすです。『
読書しない読書会』という、本屋で選んだ本の理由をシェアする会をしていて、その中でいろんな本屋さんを見させてもらっています。
今夜は、尾道にあるお気に入りの本屋、ということで弐拾dBさん(以下、弐拾dB)に来ています。
こちらで店長の藤井さんに直接お話を伺えることになりました。今日はよろしくお願いします。
みたっくす
藤井
広島の尾道で古本屋をしています。店の名前が「弐拾dB(ニジュウデシベル)」という名前です。2016年4月にオープンして、今年(2020年)4月で5年目になります。
営業時間が平日は深夜営業、夜の23時から夜中の3時まで営業しています。土日は昼間も空けていて、営業時間が変わっているということで、よく取材のお声がけを頂いています。
みたっくす
後藤
尾道でシェアオフィス「ONOMICHI SHARE」の事業担当をしている後藤です。普段は、シェアオフィスにいます。
「せっかくシェアオフィスに来たなら何か喋ろうよ。それなら(弐拾dBの)藤井さんのところに行ってみたらいいんじゃない?」「行くんだったら一緒に行きましょうよ」という話になって、今、横に座らせてもらっています。
後藤さんと出会わなければ、今日の開催はなかったですね。
みたっくす
古本屋店主がつぶやく、SNSについて
実は昼の営業時間にもお店に来ていて、今は2回目ですが、藤井さんに名前も顔も覚えていただいていて。以前、Youtubeで弐拾dBを紹介させてもらった時の動画も観ていただいている。そこだなと、それだけで「また来たいな」って思えますね。
みたっくす
後藤
藤井さんは、SNSをちゃんとチェックしていくスタイルですよね?
藤井
そうですね。Twitterでエゴサーチばかりしています(一同笑)
フォロワーが6,000人以上いて、フォロー数も4,000人くらいいるじゃないですか。お客さんがフォローしてくれたら、基本的にはフォローを返す?
みたっくす
藤井
鍵付きアカウントとかも全部返しますね。ただ、「この人はフォロー返さない方がいいんだろうな」という人にはしないよう、選んではいます。
後藤
Twitterのフォロワー数が6,000人ぐらいになると、何か変わってきますか?
藤井
そうですね。「(Twitterを)見てます」と言われますね。面白いですよね、楽しい。
フォロワー数1万人を超えている本屋のアカウントは、恵文社さんなどでしょうか。
みたっくす
藤井
後藤
個人でやっている古本屋さんでは、全国1位ってことですか?
藤井
お店でTwitterを運用している、というアカウントは多いんですよ。でも、そこに店長の名前を出しているアカウントは意外と無くて。名前を出すというのは、すごい大切なことだと思っていて、今回お聞きしたいことでもあります。
というのも、お店で本を売ることもできるけど、人で売ることもすごく大事じゃないかなと私は思っていて…ちなみに、Twitterのアイコンは藤井さんの顔ですよね?
みたっくす
藤井
みたっくす
藤井
弐拾dBの空間づくりについて
いきなりですが、本屋の裏側を聞きたいなと。弐拾dBには、例えば紀伊国屋やジュンク堂書店のような大型書店では今じゃもうほぼ見れないような本が多数置いてありますが、どんな理由で本を選んだり、置いたりしているんですか?
みたっくす
藤井
僕の店は、本屋や書店じゃなくて「古本屋」という冠をつけています。それは、新刊本も置いてますけど、古本をメインでやっているからです。
「ここにある本はどうやってセレクトされてるんですか?」とよく聞かれますが、お客さんからの買い取りが基本なので、セレクトしていない。というより、お客さんの買い取りで来たものを並べているだけ…こう言うとあれですけど。
ただ、ある意味置かない本は選んでいます。置く本を選んでいるというより、この本は置かないという取捨選択はしています。
「この本を売りたいんですけど」と来られた時に、買い取らない本を決めているということですか?
みたっくす
藤井
買い取るものもあるし、買い取れないけれど「引き取り」という形で店に並べることができる本もある。古本なので状態にもよりますが、お店に来た本でも置かないという本はあります。
そうだったんですね。ちなみに後藤さんは、弐拾dBによく来られるんですか?
みたっくす
後藤
たまにフラーッと来る。でも、僕がここへ来るより、僕のところ(ONOMICHI SHARE)に来た人が来ている方が多いです。ONOMICHI SHAREに足を運んで、話の中で「本屋」が出たら紹介しています。
他にも尾道に本屋があるのは知ってはいるんですけど、最初に教えてもらったお店という印象がありますね。
みたっくす
藤井
後藤
本のことだけでなく、「夜にやっているんだよ」と話の切り口にもしやすい。「面白い店長がいるんだよ」と。旅行で来た方は、夜早く寝てもいいけれども、せっかく来たんだったら夜もどこか行きたいと思っている。そういった時に、ここは開いているので勧められますし、尾道に来た記憶にも残るから、まず紹介しますね。
夜の22時頃にご飯を食べ終わり、「帰りたくないけど、もう帰らないといけない」という時に、「コンビニに寄って帰るのではなくて、本屋に寄って帰ろう」ができる。普通は23時にお店は閉まりますからね。
みたっくす
藤井
初めて来たのはたしか去年の10月。夜の0時過ぎにホテルから出て向かいましたが、お店に着くまでは寒かったし、一人だったので寂しかったですね(笑)
みたっくす
後藤
はい、ただお店に入ってからは、暖かく迎えられました。
みたっくす
後藤
ところで、深夜にお店を開けると、生活リズムがおかしくなりませんか?
藤井
(生活のリズムは)おかしくなりましたよ。5年目になるのでだいぶ慣れていますけどね。夜3時に店を閉めて、寝るのが4時、遅かったら5時とか。起きるのはお昼ぐらいだったりするので、昼間はしんどい。今ぐらいの時間が丁度いいぐらいです。
みたっくす
藤井
気持ち的には、昼の13時くらい。でも、体力的には大丈夫です。
後藤
土日が昼間営業で、平日の生活リズムからの切り替えがしんどそうですね。それを、あえてされているのはどうしてなのか、すごく気になっています。
藤井
金曜日の夜が深夜営業で、土曜日が朝11時から開けている。連休の時は土日の深夜も開けるんですよ。夜19時くらいに昼の営業時間が終わって、ご飯を食べたり準備をして、仮眠して、また夜11時から開けています。
後藤
(昼開けた後に深夜開けて、深夜終わって昼間開けて…)おもてなしの鏡ですよ。
藤井
「何でこの時間に開いてるの?」ぐらいのテンションで来てもらう方が嬉しい。「やったやった!」となる。近くにあるコンビニに来た人が「何でこの時間に開いてるの?昼間じゃないの?」と。
その感じ良いですね。閉まっていると思ったら、やっている。
みたっくす
藤井
建物の二階がシェアハウスになっていて、僕はそこに住んでいるんですね。居住空間と店がくっついているから、すぐ休める。だから成立しているんだと思います。
本の並べ方、本棚がそこにある理由について
本は基本、中古だから買い取りなんですね。本棚にはバーッと並んでいますが、並べ方に理由はあるんですか?
みたっくす
藤井
みたっくす
藤井
そうですね。ただ、棚には限りがあるので、意識して考えて置いているところと、なんとなく置いているところの2種類あります。だから…言うと細かいんですよ。
私は初めて来たときに、4冊買っちゃったんですよ。なんだか良い気持ちになって買ってたんです。出会いが4冊どころか何冊もあって。そういう時は、してやったりって思うことはあります?
みたっくす
藤井
例えば、わかりやすくジャンルで分けている棚もあるんですよ。音楽の棚、その下に若干、女性向けの女の子っぽい本棚とか。それから、落語や芸能関係の本は少ないスペースに一段だけで作ったりもするし。年齢層が高めのおじいちゃん向けの本を意識して置いていたりするんですけど、話すと結構面白いけど、地味なんだよなぁ〜。
今の考え方だと、セットで買っちゃうようになっている棚もある?
みたっくす
藤井
ありますね、空間が色々あるので。今三人で喋っているところは靴を脱ぐ場所ですが、向こうは土間で靴を履いたまま見てもらえるところなので、仏教関係の本を置くとか。
なぜかと言うと、仏教関係の本が欲しい方は基本、年齢層が高めなんですよ。靴を脱ぐのは面倒という方が買いたくなるように、目の付く場所に置いてみている。逆にここまで来る人は興味があるので、こっち側には本が好きな方向けの本を置いてみたりしているんです。
考えながら置いているところと、何も考えずに適当に文庫本で固めて置いてる場所もある。それはグラデーションで、お客さんが良い意味での誤読をして買ってくださることもあります。
確かに、初めて来たとき「きちんと本が揃っている感じではない」と思ったんですよね。ただ、一つの棚に一、二冊誘ってくる本があるんですよね。
みたっくす
後藤
みたっくす
藤井
わざと同じ本棚の中に、相反する本を入れていたりするんです。これは
京都のホホホ座さん(以前のお店の名前は「ガケ書房」)の山下さんという方の本にも『本棚作りで相反するもの置く』と書いてあって、僕もそれは面白いなと思った。
例えば、天皇陛下の本の横に革命の本を置くみたいな…ちょっと違うの置いてみたり。働き方のハウツー本みたいなものがあって、その真ん中に労働者向けのプロレタリア詩集。贅沢な暮らしって本の横に、貧困についての本とか。あえて逆の本を置いていたりします。
面白いですね。少し話変わりますが知識を得る上でもそういった面は大切だと思います。好きなものって偏りがある。そこで物事を考えるので、偏りがちになる。
例えば、リッチとプアの両方があるとしたら両方を本として買ったら、両方のものさしで物事を捉えられるし、知識もつけられるのかなと。
みたっくす
藤井
僕としては豊かな暮らしとかは眉唾なので、(店の姿勢としては)どちらかというとプロレタリア詩集とかそういったものを買って欲しい。そのために、あえて逆の本を置いて、あからさまに誘導している場合もあります。たまにですけどね(笑)
「何でここに置いているんだろう?」と、分かる人や気づいてくれる人がお客さんにいるので、「やって良かったな」と思いますね。
後藤
そういう意図を分かって買ってくれた人とは、レジで喋る時にニヤつきながら会話が弾むんですか?
藤井
みたっくす
藥袋デザインのブックカバーと生き物感のあるお店について
弐拾dBで本を買った時に「ブックカバーつけますか?」と言われて、「至れり尽くせりの本屋だな」と思った記憶があります。
みたっくす
藤井
古本屋でブックカバーをつけるところは無いですからね、新刊書店はあるんですけど。
新鮮でした。普段、新刊書店に行くことが多いので当たり前になっていましたが、
。古本屋でカバーをつけてくれるのは初めてでした[/st-kaiwa-2540]
[st-kaiwa-2536]元々この建物は古い病院で、その物件を使っています。そこの病院に残っていた古い薬袋を、ブックカバーのデザインにしたんです。
オープンした時に、古い岩波の裸の本(茶色っぽいカバーが付いてないタイプ)が、在庫でいっぱいあったんです。これを「どうやったら売れるんだろう」と考えるわけです。それで、「カバーが可愛いかったら、裸になった本も買うだろう」と。店のオリジナルカバーはお土産にもなるし、商売にもなると考えました。[/st-kaiwa-2536]
[st-kaiwa-2542]商売してますね〜。(笑)[/st-kaiwa-2542]
[st-kaiwa-2540 r]確かに裸の本には、カバーを掛けたくなります。
みたっくす
藤井
後藤
それは、雨の日に濡れてる女の子にタオル掛けるノリなんですか?
藤井
この話を深堀りするとそういう本屋のイメージになっちゃいますからやめましょう(笑)
ブックカバーの話に戻りますが、僕は、本屋を経営したこともバイトをした経験も無いので、本屋のことは文献から知識を得ています。だから、分からないこともあるんです。例えば、大きな書店でバイトをしていると、カバーかけるなどやってあげたいサービスを考えても、決まりなどでやれないことが多いんですかね?
みたっくす
藤井
大型書店のことはわからないのですね。ここは個人店で、一人でやっているので僕が考えたことが如実に現れますよね。僕がダメな時はダメなんですよ。ただ僕がダメダメでも、お客さんによって店が全体として良くなることもあります。店は僕が一人で作っているものではなく、お客さんと僕が一緒に共同作業で作っていると思っている。それは、個人店の良さですね。
共同で作るというのは、本をお客さんから仕入れることか、お客さんが買ってくれるからという意味ですか?
みたっくす
藤井
空間的なものですね。深夜に店を開けているので、ベロベロに酔っ払ったお客さんも来る。酔っていても良いお客さんもいるし、中々激しい香ばしい夜もあるわけです(笑)
お客さんの佇まいや本を買う姿で空間が変わってくる。お店は生き物だと思うから、僕が作った何かをあげているとは思いません。あげるだけの店だと、それは面白くないから。
後藤
都市部の駅前の大型書店の生き物感と比べて、弐拾dBにある生き物感の方が生々しさを感じるんですけれど、そんなことないですか?
藤井
そんなことはないですよ。京都の三条大橋の近くにあるブックオフ、あそこはすごく生き物なんですよ。すごく活き活きしてるんです。ビルの1〜3階にCD・ゲーム・本があって、店員さんもバイトで、やっていることは業務としてのタスクをこなしてる。でも、なんだか温度感があるんです。例えば、「このCD探しているんです」と言うと「◯◯さんのですね。今だったら、ここに無ければ…こっちですね」と、案内して的確に返してくれる。
勿論、ブックオフ的な業務の仕方だけれど、血が通っている。個人店じゃなくても、それぞれの場所で味わい深さはあります。
ブックオフは地域性が出ますよね。実家の近くの店舗は本は少ないですがおもちゃ類が充実しています。本だけで比較しても、「ここのお店は買い取っている本が違うかな?」と思って見ると、全然違うんです。
みたっくす
藤井
いろんな地域に行ったときにその街のブックオフに行くと、その街の空気がわかる。
本屋もその地域の本が置いてあって、特集が組まれていたりする。そこだけで買えるような、地元の作家が出した本が置いてあるので、結構面白いかもしれない。
みたっくす
後藤
藤井
気持ちがダメダメなときの本屋運営
「ダメダメ」という話がありましたが、藤井さんの気持ち的なものか、それとも売上がダメダメになるんですか?
みたっくす
藤井
気持ちの方ですね。精神的に僕がダメダメの時は、お店のムードがダメダメな感じがします。
ちっちゃい店だから、チェーン店と比べてお客さんとの距離が近い。会計する時に一言二言、話をするような距離感もあるし、本棚を見ている時に言葉を交わす時もある。そういう時にどうも僕が良くないと、なんか薄いというか、しょうもないんですよ。
売上が良くても、僕としては幸福度が低い。「今日は全然ダメだった」というのはあります。気持ちの問題です。
後藤
みたっくす
藤井
旅行で尾道に来て、宿に泊まって、夜に弐拾dBに来る。そういった観光客のお客さんが、うちの店はすごく多いんですよ。
例えば、本が沢山売れたから良いという訳でもない。何か心地の良いリズムというのがあって、それがあると「今日はやって良かったな」と。
勿論、売上がないと困る。でも、結果的に良いリズムがあると売上も上がる。リズムが悪いと、どうしても結果的に売上も良くはない感じなので、連動はしていると思います。
藤井さんがダメなときに来ちゃったら、その時はその時ですね。
みたっくす
藤井
でも、
お客さんが来たことによって空気が変わるので。お店を始めてから「もうやめたい」と思ったことは一度もなくて。
「あぁ、今日は開けたくないな」っていうこともあるし、気持ちがなんだかなぁという時でも、開けてお客さんが来ると空気がガラッと変わる。それで、「今日は開けてて良かったな」と、最後は閉店することはあります。それは面白い、良い時間。
儲かっている発言について
本屋って儲からないんじゃないか疑惑。「いや、儲からないでしょ!?」と思っている人は多いと思います。
みたっくす
藤井
新刊書に限って言えば、個人店で取り扱いされているところは、小口の取り次ぎを通して仕入れてたり、出版社から直取引で置いたりしています。それでも、卸値が70%、60%。ちょっと高ければ80%で、1000円で売っても200円の利益しかないこともあるので、古本屋の場合はちょっと違うと思います。
古本の場合は、売値を買取の10倍とか付けて出していることもあるのでしょうか?
みたっくす
藤井
冒頭に話した吉祥寺の百年さんは、『古本の場合は、買い取りは基本売値の30%の値段で買う。1000円で売る予定の本であれば、300円位の値段で買い取ってたりする』とインタビューで答えていたんです。その肌感は僕も近しいです。ただ、本の種類によって違います。
文庫本や大型本と単行本だと違うし、新刊本とかは訳が違う。新刊本は、同一の人気のベストセラーの本を十冊も置けるけれど、うちは一冊しかないから。そこがちょっと違うかもしれないですね。
後藤
「儲かってるのか、儲かっていないのか」という話をした時に、藤井さんは「いやいや、うちは儲かってますよ」って言っていたじゃないですか。
藤井
「儲かってますよ」って言い方はちょっとアレですが、最近流行りの言葉かもしれないけれど
「(古本屋は)持続可能」なんですよ。僕は始める時から、続けていけることを考えてやっている。今のところは続けていけると、とりあえず生活ができることは分かりました。ある程度売上は出していかなくてはいけないし、「本当にやばい!」ということもあったにはあったけれど、一年間トータルで見たら「今年も何とかなったな」という感じです。
本屋で本を買う理由について
藤井
僕は基本、服は迷ったら買わない、本は迷ったら買う。服は迷ったら絶対着ないんですよ。買っても似合わないかもって思っちゃうから。本は迷っててどうかなと思って買っても、いつか読むものだし全然損しないものだから、迷ったら買うようにしています。なんだか宣伝っぽいな(笑)
みたっくす
藤井
自分がその時に欲しいと思った、その瞬間が本当だから。その時に例えば100円、200円の差だったら買うし、そこは僕はあまり買わないことを考えてないんですけど、どうなんですかね。
人によると思いますね。僕も考え方は近くて、パラパラと見て1行でも自分に得るものがあったら値段を気にせず買ってしまう。(本の値段は)元々安くないですか?本を読む対価として、1,000円とか1,500円。ほかのものと比較すると、すごく安いものなのかな、と捉えています。
みたっくす
藤井
電気いりませんからね。非電化で、何時間でも何度でも楽しめますから。
本屋の未来について
今、本屋は減っているというデータは出ているけれど、個人の独立書店が増えているという話もあったりして。
・本屋のこれからの未来はどのようになるのか?
・どんなことを考えているのか?
を聞いてみたいです。
みたっくす
藤井
『本屋特集』というものが、よく雑誌で組まれていますよね。独立個人店をされている方が本当に多いし、カフェと併設しているとか、あとは手を変え、品を変え。
例えば、東京の文喫さんには入場料があって、コワーキングスペースがあって、それで本も売っている。そういうお店も増えている。常連さんで中・四国の本屋を全部回ってるおじさんがいて、その人に聞いても「本屋をしたい」という人は増えてると言っている。
ただ自分が個人店の古本屋をしていて、結局、個人の本屋も一辺倒になっちゃってると言うか…。
マガジンハウス的な、BRUTUS的な取り上げられやすいような本屋になりがち。僕もある程度はあるんで、アンビバレントなことを言っていますけれど、「今までの本屋とは違うよね」っていう文脈で始まったものなのに、結局また似たような本屋がどんどんできている場合もある。
ただ、店主や街の場所・立地によっては全然変わってくるものだから、一緒くたにまとめることはできないと思うし…逆にどうですか?本屋の未来的なこと、どう思いますか?
色々と考えていることはあって、今の小売全般・モノ売りは人に紐付いてる。それは、ソーシャルメディアの影響が大きい。
本屋でも「人が勧める本なら買う」という行為が増えてきていると思います。「本屋が人を帯びる」というか、人の顔が見える生き物みたいな本屋というのは、これからもっと伸びていく。
この表現が良いかわからないけど、そうなれば生活を十分できるような本屋にはなっていくだろうし、勧められた本に出会ったことで救われていく本屋、というのは今後も残っていくのではないでしょうか。
それと本という形で活字を読む人が減ってきてる事実は、これからもっと加速していくと思います。そこに対して、「やっぱり読むことは大事だよね」っていうのが、本屋なのか別のところなのか、そういう動きが出てくるんだったら、また流れは変わるかなと思います。
みたっくす
後藤
「本屋だから生き残れます」とか、「本屋って儲かります・儲かりません」というのは違うと思っている。生き残れる本屋をやっている人はやっているし、別に生き残るために本屋をやっているわけではないと思う。
そう。「生き残る」という単語が先に出るのが、何か違いますよね。
みたっくす
後藤
「かっこいい本屋」をやっている訳でもないが、来てくれる人が「かっこいい」と思ってくれるかっこよさというのも、用意しないといけないかもしれない。しかし、そこには必ず意図が入る。その空間をデザイン(管理・支配)するので、そこに店主の意図が絶対に入るはず。
一概に「本屋だから淘汰される・淘汰されない」とか、そういう軸ではない気がする。「◯◯な本屋だからこそ続いていく」とか「淘汰されているんじゃないの?」というところが大事なのかもしれません。
藤井
お店が雑誌に取り上げられる時、「深夜の古本屋」と冠がつく。意図的なので、言われるのは良いんです。ただ、今
「人で何かを買う」というところから、離れたい。「藤井くんが売っているから買うんだよね」は間違いないこともあるだろうし、「そこの店だから買いたい」というのも勿論あると思う。でも、「人で何かを買う」というのは、もう嫌で、そこから離れたい。もう少し違う段階に行きたいんです。
みたっくす
藤井
「弐拾dB」という名前の店を藤井がやっている。そこから離れて、僕じゃなくても良いようにしたいんです。僕がやっているお店なので、そこはアンビバレントなのですが。
お店をするのに物語性はいらない
藤井
それから、
お店をするのに物語性は必要ない。普通で良い。そもそも何をやっても物語が生まれるのだから、最初から言ってしまうのは気持ちが悪いんです。
元々は、僕がその当時していたバイトの空き時間で開けるために、深夜を選びました。結果的に深夜になっただけで、冠をつけることが目的として先行ではない。逆なんですよ。本音としては、今は若干変わってきていますけれど。
それに、「売上よりも、やっぱり本との出会いが大事」とも言えなくて。やっぱり継続していくためには、売上が大事で、売上があるからこそ、物語がある。そこはちゃんとした方が良いと思います。
物語を作るために、売上を作らなきゃいけない。売上を上げるためには、自分がやりやすいように「このお店だったら、どのような方法なんだろう?」と考える。そこが最近ちょっと変になっている。だから、僕は最近あの雑誌の『本屋特集』が嫌いなんです。すごく嫌なんです。
みたっくす
藤井
そうですね。(取材は)受けるけれど、一辺倒だから嫌なんです。
後藤
では、今の弐拾dBが一段上がるとしたら、どういう状態でしょうか?
藤井
今、在庫が増えてきているので、もう一個別の場所でやろうと思っています。同じ尾道市内で安い物件が空いていたので、そこを書庫として使う。使いながら、別の形で(違うかどうか正直分からないが)本屋をやる。そのために、もう一人誰か違う人に入ってもらう方が良いのか、どうしようか迷っているところです。
後藤
新しい人のキャラクターは出てもいいし、出なくてもいい?
藤井
いや、自然と出ちゃうと思うんですよ、こればっかりは。
出ちゃうし、物語を事前に作って出すのが好きじゃない?
みたっくす
藤井
話が全然違うかもしれないですが、ジャニーズの堂本光一さんは「endless shock」というミュージカルを演出しています。演出だけでなく、座長兼主役として20年やっているので、当然彼という「人」を見たくてやってくるファンがいます。
しかし、あるTV番組内で彼は「自分がいなくなっても来てくれるものに仕上げなきゃいけない、そうでなければやっている意味がない」と話していました。
お店が一人歩きして、藤井さんがいなくても成り立つ、そういう要素はあるのかなと思って聞いていました。そういうことでもない?
みたっくす
藤井
間違いなく、僕の要素はある。出しているし、出てしまう。成り立つというよりも、お客さんに自然に来てほしいんです。
どんな人にでも来てもらいたい
藤井
もともと昔はみんな本を読んでいた。今は本好きの人もいれば、本を別にそんなに好きでもない人が本屋に来る。来てもらえるような装置を考えている人も多いじゃないですか。
僕は、普段本を読まない人にも来てほしいし、本屋や本がすごい好きな人にも来てほしい。僕自身、昔ながらの古本屋もすごい好きだし、(新しい店と言われる)個人で開業された本屋も好きだから、どっちもしたい。合いがけご飯がしたい。
弐拾dBには、よく見ると品揃えが渋いところもあるし、一方で空間的には今っぽいところもある、と自覚しています。
「最近のBRUTUSに載っているような本屋なんでしょ?」とお店に来たら?
みたっくす
藤井
実際に来たら、「意外と渋いね」となれば成功。逆に、「流行ってるんだよね、おしゃれだよね」と本屋に来た人が「あれ、すごい渋いなぁ」となっているのも良い。どっちもすくい取りたい。
でも、今の本屋は、新しい本屋を揶揄的に見ている渋い店と「これからの本屋は…」とやっている新しい店。どちらも大事で、両方をやればいいのに、どちらか片方だけになってしまっています。
そうではなくて、どちらもすくい取るためには、何をどうしようかと考える。本棚の作り方か空間の作り方か、もしかしたら「人」なのか、というように。だから、僕は意外とイケてるんですよ(笑)
みたっくす
藤井
どちらも大事で、なおかつ売上もちゃんと上げようということですね。
みたっくす
藤井
儲かっていないからダメ、儲かっているから良い、ではない。
後藤
藤井
そうですね。全体を見て、売上があればいい。「今日は全然売上がなかったけれど、あの人(お客さん)が来てくれた」という思いでやっていて良かったと思う。
一方で、「今日は一日営業して、これだけ売上があって良かった!」という日もあります。反対のことを言っているようですが、人間にはどちらの感情もあるから、片方に寄るのは変。
「本との出会いがあって、売上は少ないけれど…」という本屋が素晴らしいのではないし、売上が沢山あるから良い本屋、というものでもない。
生き物だから、お客さんとお店の人・お店との空気感で、共に上手くやっていく感じがあると思います。
「合いがけご飯」をキーワードに、一辺倒にならないこと・なっていかないこと。
みたっくす
後藤
合いがけご飯を目指しているという藤井さんの意図が存在することで、お店が成り立っているんだろうと感じます。
例えば、弐拾dBのお客さんには、観光で尾道に来た時間を楽しむ一つにする人もいるし、常連さんや尾道で暮らしている方もいる。両方がお客さんとして成り立っている空間は、偶然もあるかもしれないけれど、藤井さんが意図してやっていることで、より広い範囲をすくい取れている気がします。
京都の銭湯の話
藤井
そうかもしれないですね。別の業種ですが、京都にある銭湯「サウナの梅湯」は、20代の代表・湊さんが継いでいます。銭湯には、古本屋と一緒である種ノスタルジー(郷愁)な部分がありますよね。それを、元々の古い銭湯を綺麗に直し、ボトル類を備え付けにするなどして、店内をうまく作り込むことで、若いお客さんに来てもらっている。しかも、元々の常連さんも来ているんです。
みたっくす
藤井
そうです。店主さんは顔出しをしていて、露出もしている。雑誌の取材も全部受けている。その目的は、店に来てお客さんになってもらうこと。そこも好きで、リスペクトしています。
僕たち20代から30代の若い世代は、どちらかではなく、どちらもやれる方法を探していくのが未来としてはいいんですよ。なぜなら、どちらかだけだと、どちらかの売上しかないから。若い世代やこれからお店をしたいと思っている人は、どちらもやっていく方が面白いし、楽しいし、継続できていくと思います。
若い子が来てくれるような新しい本屋が全体としては増えている。古書店には、若い人は入りたくない、怖いと感じている。本当は両立できるはずで、どちらもいけるはずなんですね。
みたっくす
藤井
先ほどの「自分はイケてるんですよ」の意味は、両方イケている時があるということですね。
みたっくす
藤井
地元のおじいちゃんが深夜に来て、若い観光の人が来て、常連の知り合いが来ている。それが最近、同時に存在できる感じになって来たので、良かったなと感じる。だから、それをやった方が良いと本当に思う。変におしゃれじゃなくていいんですよ。
弐拾dBの店内を見てもらえば、それは伝わると思います。今回の対談では、本屋の一つの未来を教えていただけた気がします。
みたっくす
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、本や本屋の未来について、お二人と一緒に語り合いました。皆さんが本屋を訪れる楽しみが増えれば幸いです。
そして、観光などで尾道を訪れた際は、仕事や作業をしたい方はONOMICHI SHAREに行って、食事をとった後の深夜には弐拾dBで素敵な時間を過ごしてみてください。
弐拾dB
ONOMICHI SHARE
尾道には素敵な本屋が他にもあります。詳しくは「尾道の本屋3選。行く度に楽しい、そこはもはや観光スポット」にまとめていますのでチェックしてみてください。そして、尾道を訪れた際は行くことをおすすめします。
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尾道の本屋3選。行く度に楽しい、そこはもはや観光スポット
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