書評

『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』本を売るだけが商売ではない

2021年7月5日

モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語

「この本は売れますよ。」

きっとモンテレッジォの本の行商人たちも『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』を見た時に即答したことでしょう。

著者は、長年イタリアに暮らすジャーナリストで、通信社を営んでいる内田洋子氏です。
2011年『ジーノの家 イタリア10景』で、日本エッセイスト・クラブ賞と講談社エッセイ賞をダブル受賞し、その後も、主にイタリアを舞台にしたエッセイや翻訳書などを多数刊行されています。

本作は、そんな内田洋子氏による、まるで旅を楽しむかのように、それでいて、真剣に歴史と人と向き合ったエッセイ仕立てのノンフィクション作品です。

物語は、イタリア、トスカーナの山奥にある小さな村、モンテレッジォの人々です。
今では32人しかいないその村では、かつてイタリア各地へ、時には国境を超えて本を売りに行っていたといいます。

といっても、決して最初から本を販売していたわけではありません。行商人であった彼らの通行許可証の職業欄には、以下のような変化がありました。

  • 1810年代 :<石、および雑貨の小売>
  • 1830年代 :<砥石と聖者の御札売り>
  • 1854年: <農業、歯科医および石売り。そして本も売る。

石から本へ。

売り物が変わっていく背景には、時代の変化を的確に捉えていたことが伺えます。特に当時のイタリアでは独立の気運とともに情報へのニーズが高まり、本の必要性が高まっていたのです。

当時はまだまだ読み書きの出来ない人たちが多く、領土争いも行われている時代です。そんな中で各地で本を売り歩く、モンテレッジォの行商人たちの話に夢中になっていました。さらに本を売り重ねるうちに、行商人たちは庶民の懐事情に精通し、彼らにあった本を見繕って届けていくこととなります。彼らは行商人たちに会うのを楽しみにしていました。

そして、彼らの見る目は確かだったらしく、時には出版社がゲラを読ませて印刷するかの判断を求めることもあったといいます。

そうした行動は子孫へと受け継がれて、当時、露店だったお店は書店へと形を変え、イタリア各地に書店ができていったといいます。こうした先人たちの行動は、時には国境をも越えて、命をかけて勇気と本とイタリアの文化を広める結果へと繋がっていったのです。

『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』は、内田洋子氏自らが見て、聞いて、集めた話です。その話の面白さに夢中になり、この方のお話や本をもっと知りたくて、何かに憑かれたように、本屋でまた本を手に取ってしまいました。それはまさに当時のモンテレッジォの行商人たちに魅せられてしまったことと同じことなのかもしれません。

またこの本に夢中になってしまうのは、内田洋子氏による小さな村の本屋の足取りを追うという「旅行記」の中で、モンテレッジォの人たちの「旅行記」が書かれているという入れ子構造により、二重の世界を楽しむことができることも要因かもしれません。
まるで夢の中で夢を見ているかのような独特の体験となることでしょう。

イタリア好きも本好きも、そして物売りをしている方にとって読んで損しない作品です。

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