書評

『どうしても生きてる』 人生に悩みながらも生きるしかない人間の話

2021年5月31日

どうしても生きてる 書評
渡辺
わた
朝井リョウの本は一度読んだら読み返したくない系の本が多い。しかし、『どうしても生きてる』は例外で繰り返し読みたくなる。

『どうしても生きてる』は朝井リョウが2019年に発表した短編集である。「健やかな論理」「流転」「七分二十四秒目へ」「風が吹いたとて」「そんなの痛いに決まってる」「籤」の6編が収録されている。

「健やかな論理」は、東京で会社員をしている佑季子の話。バツイチでマッチングアプリで知り合った彼氏がいる。

「流転」は、夢をあきらめ、家族を養うために会社員となった豊川の話。同僚と会社を立ち上げようとしている。

「七分二十四秒目へ」は、派遣社員の依里子の話。YouTubeを見るのが日課。正社員と派遣社員の待遇の差を突きつけられている。

「風が吹いたとて」は、夫と高校生の娘と中学生の息子がいる、パートをしている主婦の由布子の話。パート先のクリーニング屋の人間関係に悩んでいる。

「そんなの痛いに決まってる」は、最近転職した良大の話。妻が自分より輝いて見えるのが辛い。

「籤」は、演劇ホールで契約社員として働くみのりの話。妊娠が分かった。職場のアルバイトの勤務態度が悩み。

6編とも、人生に悩みながらも生きるしかない人間の話である。

朝井リョウの作品は、読後感があまり良くないものが多いというのが定評と言えようか。

2021年5月現在の朝井リョウの最新作『正欲』のキャッチコピーは「読む前の自分には戻れない」である。なんと恐ろしい言葉だろうか。

本を読み進めている間はページをめくる手が止まらないが、いざ読み終わってみると疲労が襲う。もう一度読み返すには多大なエネルギーが必要である。しばらくは本を視界に入れたくない。朝井リョウの作品は、そのくらい読者に訴えかけてくるものがある。だから、直接の友人には朝井リョウの作品は薦めづらい。読んで楽しいというジャンルの本ではないからだ。

「本を視界に入れたくない」という点では、朝井リョウの作品は電子書籍で購入してもいいかもしれない。一旦読み終わったらデジタルデータの中に本を埋もれさせることができるから。リアルの本は、読み終わって本棚に戻しても、嫌というくらい存在感があるものだから。

と、朝井リョウの作品は一度読むだけで自分の意識をひっかきまわされ、しばらくは読み返さなくていいやと思ってしまいがちと書いたものの、『どうしても生きてる』については例外である。繰り返し読みたくなる本である。

6編の登場人物は多種多様である。不安定な雇用形態に苦しむ者。東京で正社員として働きながらも、周りには言えないことをしている者。家族との関係に悩む者。自分と同じように苦しんでいる人って沢山いるんだな、とかこいつよりはましな生き方しているな、とか。

この本を読むその時々の自身が置かれた状況によって、登場人物に共感を覚え勇気づけられることもあるだろうし、登場人物を見下して自身の心の平穏を保つときもあるだろう。

周りの人を見下す。もちろん、大っぴらにやってはいけないことである。しかし、言えないだけで皆やっているのではないか?やらないと、生きていけないのではないか?別に心の中で思っているだけ、しかも本の中の実在しない人物のことなら見下してもいいのではないか?そんな感情を自分の中で納得させるために『どうしても生きてる』の登場人物を使っていいのではないか?

『どうしても生きてる』は、自分が生きるために、どうしても生きていかないといけない毎日のために必要な一冊である。

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