こんにちは。みたっくす(@book_life_net)です!
booklife(ブックライフ)では、「本のある生活」を目指して、本と触れ合うきっかけや本のある楽しい日常を発信しています。
2021年本屋大賞と164回直木賞にノミネートにされた「オルタネート」。
その作品を書いた男性アイドルグループNEWSのメンバーである加藤シゲアキ(以下、シゲ)を知る上で欠かせないコメントがあります。
2020年6月にジャニーズ事務所所属アーティスト全15組、75名による期間限定ユニット「Twenty★Twenty」のチャリティーソング「smile」のリリース日決定に際して、各グループからコメントが寄せられました。
その中のNEWSからのコメントを抜粋します。
広漠とした静かな湖の向こうに、小さく灯るオレンジの明かり。
この曲を聴いて、そのような光景が目の前に浮かびました。レコーディングブースに入ってもその印象は変わりませんでした。スタジオはやたら広く、スタッフも距離をとっているため遠い。ここからどのような笑顔を届けることができるのか。悩みながらも、誰かの明かりになったらと、思いを込めて歌いました。笑顔はひとつではありません。くすっと笑う笑顔、照れた笑顔、悲しみを抱えた笑顔、満面の笑顔。この曲にはあらゆる笑顔が込められていると感じました。
レコーディング中は、自分からどのような笑顔を生み出すことができるだろうと考えながら声を出していました。しかしそれに対する明確な答えを出すことはできませんでした。果たしてこのような歌声でよかったのか。
悩みながらスタジオを後にしたとき、少しだけ足取りが軽くなっていることに気付き、自然と笑顔がこぼれました。
この曲には、そういった力があります。どのようなときも笑顔でいること、また人の笑顔に出会うこと、その必要性を問うこの曲がたくさんの人の胸に届くことを願っています。
楽曲の印象や想いをありありと情景や感情を交えて表現する文章に、ファンたちの間では「シゲシゲしい」と言う言葉が使われました。これはシゲが書いたに違いないと。
今回は、そんなシゲの文学的な側面について触れていきたいと思います。
Contents
1年に1冊のペースで出版
シゲは、アイドルグループNEWSの一員として活躍する傍ら、2012年から作家として執筆を続けてきました。あまり知られていないかもしれませんが、その後、ほぼ毎年のペースで小説を出版しています。
それは文学界にお邪魔しているという立場を忘れず、責任感を持って作品を出し続けることを決めていたからのように思われます。
自分の見た世界を背景に、衝動的に1冊だけ私小説のような作品を出す芸能人なら多くいます。まさに処女作である『ピンクとグレー』は、アイドルの加藤シゲアキが見た世界を切り取った世界観を感じました。ですが、そのあとに渋谷サーガ3作品と呼ばれる「閃光スクランブル」「Burn. ―バーン」を立て続けに出版することでアイドル作家としての評価を一変しました。
今となっては、3作の構想は最初から頭の中にあり、意図的に『ピンクとグレー』を処女作として選んで出版していた感すらあります。
渋谷サーガ3作品以降は、ジャニーズだから、アイドルだからという枠を越え、むしろそうしたアイドルしか見れない景色というものを意図的に抑え、時々、匂わせるくらいの塩梅で作品に入れているように思います。
読書好きの間では、アイドルと同じくらい作家として見られるようになり、NEWSのライブ会場でシゲファンの男性を見かけることが増えたのもこの頃からでした。
文学界とのつながり
デビュー後のシゲと文学界をつなぐ上で欠かせない番組があります。
芸人・又吉直樹とともにMCを務める「タイプライターズ~物書きの世界~」です。
かたや芸人、かたやアイドルながら、ともに小説を創作し作家としての顔を持つ二人が、ゲストに同じく作家を招き、その知られざる素顔や執筆の裏側を探求していく、史上初物書きの物書きによる物書きのためのバラエティー。
癖のある方が作家には多いものですが、そうした癖のある会話に難なくついていくシゲを見ることができます。また気づけばタイプライターズファミリーになった中村文則氏・羽田圭介氏といった作家の人たちと親交関係を築いており、もはや文学界の人なのでは?と映ります。
「タイプライターズ」は、季刊放送なので定期的にチェックしないと放送日がわからないのが難ですが、是非、作家としての加藤シゲアキを知る上で見てほしい番組です。
特に新刊発売時などは特集を組まれてきましたので、どのように作品が生まれたのか、その作品の作り方などこの番組でしか明らかにしていない制作秘話が見れる意味でも必見です。
文学界の話からは脱線しますが、シゲは映画通でも知られています、
当時のラジオ番組「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」内で映画ランキングを発表した際は、その独自の視点に宇多丸さんだけでなく、きっとリスナーも驚いていたことでしょう。
2014年映画ランキングのラジオ文字起こしはこちら
本屋大賞、直木賞候補作「オルタネート」について
直木賞候補に選ばれた際のインタビュー会見で印象的だったのが、文学界にお邪魔している意識から文学界に貢献する意識へと明確に変わったことを示唆する発言です。
それは初めて小説を書いた時から思っているんですけど、小説界にお邪魔するということは、今まで本に触れなかった方々の触れる機会になるだろうと。その責任というものはずっと背負ってきているので、今改めて不安かというと、実はあまりないです。それは、生意気ですけど、ここまで続けてきたということで培った自信があるかなと。
「アイドルだから」という評価を覆し、今では人気アイドルだからこそできる役割も果たそうというメッセージを強く感じました。
あくまで一人の読後の感想ですが、これまでの作品は、仕事の納期に追われるかのような必死感が伝わってきました。一方で、オルタネートは、これまでの小説よりも作品としての余裕を感じました。
「チュベローズで待ってる(後述)」のようにあらゆる設定を盛り込むのではなく、わかりやすいテーマで楽しみやすい作りが前半から伝わってきます。
だからこそ読みやすく、それでいて作品の世界に没入する話の展開に一気に最後まで読んでしまいます。
ちなみにオルタネートの世界の中ではSNSが物語の重要なパートを締めています。
ですが、アイドルとしてのシゲおよびNEWSは現在SNSはほぼ利用していない状況なんですよね。
オルタネートを読む中で、SNSについて良いところも悪いところも俯瞰的に捉えているシゲを知れたことは、きっとSNSに興味があり、ファンとのつながりのために欠かすことができないツールであることを理解しているからこそ、テーマに選んだ一面もあるのではと勝手に勘ぐっています。
NEWSとして、シゲとしてSNSを始める日は近いのかもしれない。その前にオルタネートを読んでおくことは必須かもしれませんね。
加藤シゲアキの出版本を紹介
以下では今回の2021年本屋大賞と164回直木賞のノミネートを機にシゲを知り、シゲの本を読んでみたい方のために、各作品のアイドルでもあり、作家でもあるシゲだからというポイントを添えてご紹介します。
内容の好き嫌いは横に置いて考えると、作家・加藤シゲアキを知りたい、作品を楽しみたい方は「オルタネート」→「傘をもたない蟻たちは」or「チュベローズで待ってる」→「渋谷サーガ3作品」という順番が読みやすさも含めてオススメです。
一方で、アイドル加藤シゲアキならではの作品を楽しみたい方は、「渋谷サーガ3作品」から読み始めると良いでしょう。
ピンクとグレー
この作品は、「出版された当初」と「直木賞候補に選ばれた今」に読むのでは全く異なる感想を持たざるを得ない内容です。
NEWSというグループは、デビューしたジャニーズグループの中で1番メンバーが減ったグループでもあります。9人だったのが、2021年1月時点で3名です。。。
ピンクとグレーが出版した時は、まさに4人体制になった再スタートの時でした。そうした中での出版は、相当な葛藤や覚悟があってのものだったとシゲ本人もインタビューで語っていました。
そうした背景に加え、アイドルが出版するということだけでも厳しい目線を送られます。
だからこそピンクとグレーはどの作品よりもそうしたシゲの説明しようのない気持ちが憑依しています。
また登場人物が当時のメンバーを想起させるところもあり、当時のファンの中ではどうしても読むことができないという人もいたり、とにかく色んなことを背負った作品なのです。
デビュー作なのでこの本から読もうという方もいるかもしれませんが、NEWSの歴史と合わせて味わうことで本当の意味で楽しめるので、ぜひ、NEWSについても一緒に興味を持ってもらいたいです。
※伝説となっている4人での再スタート時の復活コンDVDも紹介します。
閃光スクランブル
あらすじにも書かれているとおり、女性アイドルとパパラッチの話の中です。ただその中でカメラについての描写が違和感があるほど細かくされています。
シゲは、写真を撮り続けている人としてファンの中では知られています。
過去にはライブのアンコールにカメラを持って現れることもありました。
ちなみに愛機は、今も変わっていなければハッセルブラッドの二眼カメラだと雑誌やインタビューの中で答えていました。このカメラは、もちろんフィルムカメラ機です。
では写真集も出しているのか?というと答えはNOです。
シゲが撮った写真が世に出ることはほとんどありません。
それは著名なカメラマン、森山大道氏との対談の中で、写真集を出すことを勧められてもやんわりと否定していることから可能性は薄いもののように思われます。
ただし、旅をテーマにしたエッセイ集「できることならスティードで」で、なんと本人が撮った写真が挿入されていました。これには驚きました。というのも写真は、自分の内面をさらけ出すことにもつながるからです。
きっとエッセイがそうしたものだから本人も写真も添えてもいいと判断したのかもしれません。
閃光スクランブルは、そんなシゲのカメラ・写真への考え方や描写がふんだんに盛り込まれています。そして、アイドルとして撮られる立場の人が、撮る側を描くという視点がまたユニークであり、撮る側へのメッセージも込めた作品なのかもしれません。
アイドルなど芸能人をネタに仕事にする人たちがいる一方で、そうした人をアイドルはどのように見ているのかが垣間見れる、まさにアイドルのシゲにしか書けないリアリティのある作品です。
Burn. ―バーン―
渋谷サーガ三作品は、どれもアイドルとしてシゲならではのポイントがふんだんに盛り込まれています。
第三弾のBURNでは、子供の頃のアイドルの感情描写がそれに当たります。
読んでいると小学生の頃からテレビに映り、人気子役になっていたらどんな生活だったのだろうと自然と考えてしまいました。
世の中をどのように認識してしまっていただろうか?
外からみれば華やかな場所に身を置いている姿は、嫉妬の対象として映るかもしれません。だけど本人としてはきっと孤独を感じていたのではないか、そんな感情が乗り移るように入り込んできます。
ちなみにシゲのジャニーズへの入所は、6年生の時だから作品内の設定とは時期は異なります。
それでもジャニーズ事務所内に複雑な感情を持った子は沢山いたことでしょうし、今もいるかも知れません。そうした子たちを見て、また本人も体験してきたからこそ、Burn. ―バーン―という作品が書けたのだと思います。
- 渋谷再開発を引き金にした社会への問題提起
- 垣間見える渋谷という街の魅力
- 大人に子供、性の違い、それぞれの立場での「生きる」ということは何か
三作品の中でも特にメッセージ性のある作品です。
傘をもたない蟻たちは
シゲという人に興味があり、頭の中を覗きたいという方は、この本を読むことをおすすめします。
どのように世の中を見れば、こんな作品が書けるのかと興味を持たせてくれる6つの物語が詰まったファンからすれば宝箱のような短編集です。
他人の前では決して露わにしたくない「人間」の本質というものをエグるように描写する言葉の数々に、読み手の想像力を試されているようにも感じます。
渋谷サーガ三作品を書き終え、この作品からアイドル加藤シゲアキから、作家 加藤シゲアキの作品へと変わっていくことを示した本ではないでしょうか。
短編なのでどの話も隙間時間で読めるので、いきなり長編は…という方はこちらの「傘を持たない蟻たちは」から読み始めることをオススメします。
チュベローズで待ってる【AGE22・AGE32】
嫉妬するほど面白い。
暴力団、ホスト、スマホゲーム開発、企業内の権力争いといった誰もが気になりそうな世界を、これほど面白く絡みあって成り立たせた物語はあったでしょうか。
それぞれ1つのテーマだけでもヒットに繋がるテーマが全部のせです。
ちょびっとだけアイドルのシゲを活用している描写もズルくて、例えば、アイドルが描くホストってだけでワクワクしませんか?
チュベローズでは、緻密な取材を行ったと思われるシーンが多々あります。その業界に関わってないとそんな細かいシーンまで知らないでしょ?という描写が数多くあるのです。
各テーマの当事者が読めば、「分かる!分かる!そこが大事なんだよ!」と感心するシーンもあるのではないでしょうか。
また所々で著名な本の「君主論」や「罪と罰」の1節を引用をするあたり、シゲシゲしくてたまりませんね。
色んなテーマを描くシゲは、本というエンタメでも新しい景色を見せてくれます。
番外編「あやめ」というソロ曲
ジャニーズのライブツアーでは、ソロ曲を歌うシーンがあります。ソロゆえに個性のある演出に推しがいるファンはいつも楽しみな時間です。
その中で2017年にシゲのソロ曲「あやめ」は、NEWSファンを超えてほかのジャニーズファンの間でも話題になりました。まるで活字の中だけの世界を、リアルでも見せてくれる曲なのです。
まさにアイドルと作家として活動しているシゲにしか表現できないエンタメです。
あやめの映像は、おそらく公式には「NEWS LIVE TOUR 2017 NEVERLAND」のDVDでしか見ることができませんが、ぜひ観てもらいたい曲です。
まとめ
シゲの作品をすべて読んできた身として、新作のオルタネートが、164回直木賞と2021年本屋大賞にノミネートされたことは、驚きや喜びよりごく自然なこととして受け入れていました。
とはいえ特に直木賞は歴史も権威もある賞ですから、人気アイドルだから選ばれたんでしょ!と思っている人の声も同時に目にしました。そうした声も仕方ないと思いつつも、そうした声をきっかけにシゲの作品に触れることが増えるなら、そして、本に触れる人が増えるなら良いことだと思っています。
それは、きっと『オルタネート』が直木賞や本屋大賞を受賞するかどうかよりも大事なことなはず。
そんなきっかけつくりを一緒に応援します。
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